「吹き抜け」「出窓」「天窓」をぼくは現代住宅の三点セットとよんでいます。郊外の住宅地にいくとこれらを完備した家がかなりあります。この三つのアイテムには共通点があります。どれも「広がり」を演出できるという点です。(中略)
「吹き抜け」「出窓」「天窓」のもうひとつのキーワードが「明るさ」です。
天窓のある部屋などは、まるで屋外にいるかのような明るさですし、出窓も吹き抜けも「明るさ」を演出します。
NHK人間講座藤原智美「住まいから家族を見る」より
広さと明るさの希求というのは、たぶん人間の本能に根ざしたものなので、仕方のないことなのだと思われます。
私はスローライフなどというキャッチフレーズは嫌いですが、(とくに車のCMなどで使われるとものすごい違和感を覚えます。エコと同様、車会社が言うことではありますまい)明るい家は好きです。
今までいくつかの住宅展示場を設計させていただきました。その中には敷地条件として真北向きのものも2つありました。
その際に、北を南に見立てて設計するのですが、できあがった展示場で、その建物が北向きであると見破ったお客様はたぶんいらっしゃらない自信はあります。プロには通用しないでしょうし、24時間365日お住まいになれば、すぐに判ってしまうでしょうが、昼間の短時間見て回る分には、まず大丈夫なはずです。
実際、お客様に方位のことを告げると、一様に驚かれたものです。
そのコツは、室内の絶対的な明るさよりも、明るさ暗さのグラデーションの取り方です。周囲の環境(展示場ですから周りはだいたい同様の住宅です)と、方位、光を反射する背景を調べ、それを元に間取りと窓の開き方、トップライトの配置を考えます。もちろんインテリアのカラーも調整します。
坂本龍一さんの「戦場のメリークリスマス」のなかに、循環する音階をいつまでも上昇し続けると「感覚」してしまう曲がありますよね。それと同様、南側の部屋よりも、北側空間の見かけ上の明るさを上げてしまうのです。それだけで、ほとんどの方は方位を錯覚するもののようです。
一般の家でも、この手法は活用できます。周辺環境の短所を長所に変えるためにも、こういったテクニックは重要だと思います。