寝室といえば睡眠の専用空間という考え方が一般的でしょう。けれど寝室は眠るだけの部屋なのでしょうか?

『寝室の文化史』によれば、フランス人がベッドで寝る以外に行うこととして、セックスが六三パーセント、読書が五三パーセント、音楽鑑賞が三一パーセント、朝食が二四パーセントなどとなっています。

フランス人は寝室が個室であって、そこは個人的な興味を満たす場所でもあるという意識が強いのではないかと思います。寝るだけでなく「居る」ための部屋でもある。つまり居室性をもとめているのです。

日本ではどうでしょうか。夫婦の寝室でこれだけ多様なことが行われているとは思えません。日本人はよくテレビを見る国民ですが、夫婦の寝室にテレビがある家は少ない。この事実一つをとっても寝室を自分の興味を満たす場所として見ている人は少ないことがわかります。

NHK人間講座藤原智美「住まいから家族を見る」より


現代の日常は刺激に満ちています。そのため、眠りたくてもやりたいことやらねばならないことが増えているのでしょう。そこから、睡眠は覚醒の奴隷という考え方が一般化しているのです。

筆者の言うとおりに、テレビがない寝室がそんなに多いのかはかなり疑問ですし、その意味でこの部分は事実誤認があるような気がしています。

それはともかく、ここらで日本人も、もっと豊かなベッドルームをつくってはいかがでしょうか。

自慢をするつもりはありませんが、わたしはオランダ王室御用達のベッドを使用しています。一度横になってその寝心地に惚れ込み、清水の舞台から飛び降りたつもりで購入したのですが、考えてみれば一生の間に、自家用車にはその何十倍ものコストをかけてゆくのに、私たちは睡眠への投資を怠っているのかもしれません。一日8時間睡眠するとすれば、たぶん車に乗っているよりもはるかに長時間ベッドの上で過ごしているにもかかわらず、それだけのコストを眠るために使ってはいないはずです。

こういった、「常識」の中に住むコストパフォーマンスの逆転現象は、私たちの生活の中にたくさんあります。

住いづくりもその例外ではありません。造り手の敷いたレールに載って、「常識」通りに住まいを建てるのも良いのでしょうが、住いづくりを人生設計や家族関係再構築の絶好の機会ととらえて、プロである住いづくりのパートナーとともにさまざまな問題について検討してゆくのも有意義な時間に違いありません。


すまいづくり雑感
□ 「住まいから家族をみる」より 7
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