□社長のこと 30 M.S.
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社長の持ち物 その2
社長のもうひとつの驚くべき革製品とは、システム手帳だ。
この4月に今まで使い続けたファイロファクスが壊れたのだが、その古い手帳、1984年の春から、なんと21年も使ったという。
確かに、その年4月からの英字のデイリーリフィルを見せてもらった。1984年というと、ファイロファクスが日本に上陸した年だ。つまり社長は日本における、ファイロファクス第一世代ということになる。
途中2年ほど、これより小さい手帳を使っていたそうなので、実質はもう少し短いにしろ、すごい。
13ミリのリング径のバイブルサイズで、色は黒。さすがに表面のツヤはまったくなくなり、背の部分が3枚くらいに分離していて、金具が取れている。
社長は取れかかっているといっているが、普通この状態は取れているという。
革の厚みがあるために、やはり小口は瞬間接着剤で固めてあって、何度も補修のあとがあるのだが、それでも背の部分の亀裂は顕著すぎ。
1年ほど前から痛みが激しくなって、社長も更新の時期だと考えたようだが、なかなかいい手帳がない。
どうやら今はシステム手帳を使う人が減っているのではないかと社長は言う。バインダーの選択肢もあまりないし、リフィルの種類が減っているそうだ。
社長はシステム手帳のバインダーとしては一般的な20〜25ミリのリングが嫌いだそうだ。
手帳の比率として美しくないし、あの厚さはすでに手帳ではないという。
ところが社長の欲しがる13〜16ミリのリング径は、選択肢が少ない。
それ以外にも、金色の金物は嫌だとか、止め具は不要だとか、リフィルよりずっと大きいものはダメだとか、いろいろな条件がある。
それで、お眼鏡にかなうものが見つからず、先延ばしになっていたようだ。
そのうえ、恐ろしい忙しさだったから仕方ない。
うちの事務所では東京駅丸の内口の整備事業にかかわってきたので、社長の足もそちらに向く。オアゾの丸善に何回も通って、やっと新しい手帳が決まった。
色はやはり黒の、革だった。
山羊革を細くしてから編んだもので、独特の雰囲気がある。
使い始めてしばらくして、今度のはどうですかと水を向けたら社長は言った。
「こんどのシステム手帳は22年使う」
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