□見積書の見方

見積書と一口で言っても、建築士が見てもその見積りが適正であるかとの判断は時間がかかります。理由としては、三つがあります。

ひとつは、見積書の項目が統一されていないこと。ある項目がどの大項目に含まれるのか、あるいは工種別に分けるのか部位別に分けるのかなど、業界内でもいろいろなやり方が混在しています。

ふたつめは建物の構造形式や工法によって見積書に違いがあることです。工種も異なりますし、それぞれの工種が占める金額の割合も大きく違います。また工場生産と現場生産の部分がメーカーや商品によってまちまちで、そのために工場部材費に含まれる内容を把握できず、見積りどうしの比較が出来ないわけです。

三つ目は、標準仕様が会社・商品で異なることがあげられます。ご承知のように、標準仕様にどの範囲を含めるのかは、高度にマーケティング的な内容で、その上期間を限定したキャンペーン仕様などがあり、それによってある項目の見積書での扱いも変化するのです。

大きなメーカーではそれぞれ独特なやり方のまま見積書作成のシステム化、コンピューター化を行ったために、業界内で見積書を標準化することはこれからも期待できないでしょう。複数の見積りを較べにくい方がよいとの意志が働いているのかも知れません。

以上述べてきたことから、見積書それ自体を正確に調べるのは大変なことであるとおわかりでしょう。ただし、顧客の立場では素人の方なりにチェックする方法があります。

第一に、見積書と対応した図面や仕様書があるかどうか。この平面と仕様でこの値段という一対一の対応がなければ、正確な見積書が出来るわけがありません。メモ書程度の平面図と見積書を持ってくるような業者には、よく気を付けるべきでしょう。最低でも平面図と立面図、仕様書・仕上表がなければ見積りが作れないはずですから、それらの揃っていることが条件と言えるのです。

第二に、標準以外で自分が頼んだ仕様がどの部分に入っているのか確認します。大きな会社では、営業マンが直接見積書を作ることは少なく、専門の積算係がコンピューターで作成している例がほとんどでしょう。見積書を持参した営業自身でも、見積書を隅まで知っている方が少ないと思います。それでも、質問に誠実に答えるかどうかを観察することは出来ます。

第三に、建物本体工事以外に着目する方法です。なかでも解体工事、ガス工事、外部給排水工事は複数の見積りどうしを比較するのに適した項目と言えるでしょう。金額はもちろん、どの程度の明細がついているのか、どこまで見積られているのかなどに留意します。カーポートがあるのに散水栓も拾われていないようでは、今後かなりシビアなチェックが必要になるでしょう。

見積書に関して言えば、根ほり葉ほりではなく、ちゃんと説明できるかどうかの確認でよいと思います。いくつかの会社の見積書が手元にあるなら、値段の違いに関しての質問をぶつけても良いでしょう。ただしあまり細かく比較しても、徒労に終るかも知れないのは前述のとおりです。私でしたら、何点かの質問をして、わからないことはいい加減な答をせずに、会社に持ち帰って調べてくる営業マンを選びます。

ここであまり言われていない点を指摘しておきますが、各社の見積りシステムには癖があります。建物価格が建物の大きさにほぼ比例する会社もあれば、建物の壁の長さに比例したり、吹抜が安い会社もあります。建物の凹凸にあまり影響されない見積りや、複雑な形状では比較的高い価格が出る例もあります。同様に、標準仕様以外のものを嫌がる(見積りが高く出る)場合と、標準仕様以外のものでもリーズナブルに見積る場合があります。見積りを頼む前に、それぞれの会社の傾向を営業マンに聞いてみるのも一つの方法です。開口部(サッシなど)が外壁と較べて高い場合、開口部の大きさを調整したり、物入れの増減がすぐに見積りに影響するようであれば、物入れを減らすなどの対策が立ちやすいのです。よく同じプランで数社から見積りを取る方がいらっしゃいますが、その標準のプランをどの会社が考えたかによって、最初から他の会社にハンディを負わせている可能性があります。各社の見積りシステムの癖は、良い悪いではありません。システムの積算方法や工法に起因するものだからです。事前に傾向を聞いておけば、プライスパフォーマンスの高い間取りを手に入れることが出来るかもしれません。

住いづくりのノウハウ
□検討するための基礎知識
  ・工法の違いを再確認
  ・値引きには3通りある
  ・チェックシステムよりも大事なもの
  ・顧客評価はこれで調べる
  ・企業組織と家づくり
  ・見積書の見方
  ・ユーザーを探そう
□ 検討するための基礎知識
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